2019/02/12
居心地のいい、くつろげる図書館を目指して。[佐用町立図書館・館長補佐 蔭木陽子さん]
- 命が吹き込まれた場所。
何度も佐用町立図書館に通ううちに、そんな風に思うようになった。どの本棚にも手が入れられ、空間のすみずみまで誰かの優しい気配を感じられるところ。
ある日、息子と絵本を返しに行くと、その日に返却されたたくさんの本の表紙を1冊ずつ丁寧に拭く司書さんの姿が見えた。無機的な何かに、命の息吹が、愛情の種が植えられる瞬間だった。
「はたらくこと」って何だろう。お金と引き換えに日々のルーティーンワークを繰り返すこと? もちろんそれもかけがえのないことだけれど、それ以上にもっと大切な何かがあるんじゃないか。そのカケラを探すため、佐用町立図書館の館長補佐・蔭木陽子さんにお話を伺った。
きっかけは「続けられる仕事をしたかったから」
「私ねぇ、図書館っていう空間が好きなんです」と陽だまりのような、おっとりした口調で話す蔭木さん。目を細めて図書館への想いを語る様子に、思わずこちらも顔がほころんでしまう。やっぱり幼い頃から本が好きだったんだろうな、と思いきやどうもそうではないらしい。「いいえ、まったくなんです(笑)。学校の図書室といえば、薄暗くて埃っぽいところだったなぁっていう記憶があるくらいで(笑)。でもね、嫌いじゃなかったかな」
司書になったきっかけは、意外にも「結婚をして産休を取っても、続けられる仕事がしたいっていうのと、どうせ働くなら男のひとと同じ給料がもらえる方がいいなって」と、かなり現実的な動機から。
大学を卒業後、大学図書館で勤めるうちに「アカデミックなところよりも、もっと生活に密着した公立図書館の方が自分に合うのでは」と考え始めた矢先、阪神・淡路大震災が起こり地元・宍粟市山崎町へ帰ることに。そこで当時の新宮図書館に入庁する。「新宮図書館の先輩たちは、高い意識を持って図書館というものをサービスしようと、進めていらっしゃったんです」
そこでの経験が、その後の人生を拓くことになる。
人生を助けてくれる読書との出会いを、子どもに。
「当時ね、児童サービスでは全国屈指と言われる方が太子町立図書館の館長でいらして、そのひとを中心に周りの図書館はかなり研修を積んでいたんです」
司書の仕事とは、“人と本をつなぐ”ことだ。話題の本から資料、専門書や美術書に至るまで膨大なアーカイブを管理し、それを必要な誰かの手に届ける。けれど、その必要な誰かがまだ言葉もおぼつかない子どもだったら? 豊かな感性を持つ子どもたちが、人生の助けになる読書と出会うには? そんな答えのない疑問に、新宮図書館では向き合うことになったのだそう。
「子どもたちと本を繋げるためにどうしたらいいか、どんな風にしたら良い本と出会えるのか、そんなことを考える人たちが身近にいたのはすごく幸運なことでした。子どもというほんの限られた時間のなかで、心を揺さぶられるような作品に出会えるかどうかって、直接的に影響することではないかもしれないけれど、やっぱりその後の人生で生きやすくなるんじゃないかな」
佐用っ子が大好きな、スーパーはくとの絵本棚。
子どものための読み聞かせスペース。「ここに、おこた(炬燵)を置ければなぁって思うんです」という発言に、思わず大賛成!
おしゃべりの聞こえる、図書館。
「図書館ではお静かに」。面白いことに、そんな規則を最初に破るのが佐用町立図書館の職員さんだ。「こんにちは!」「寒かったでしょう?」カウンターから聞こえる、あたたかい声。それにつられるように「いや~久しぶりやねぇ」と図書館でばったり出会った人たちや、読み聞かせする声も聞こえてくる。あちらこちらで交わされる声を聞いていると、ここは人と人とが交流する場所なんだな、と心がゆるんでくる。
「来ていただいた方たちに、自分のおうちと同じように思っていただけたらって。(おうちとは)別の場所に自分の本棚がある、という風に思っていただけたらという思いを込めて、お声がけしています」
おしゃべりが聞こえる、くつろげる図書館。本の貸し借りという業務だけでなく、その向こう側にいる人への想像力と思いやりが、常識に捉われない有機的な図書館を作り出していく。もしかすると蔭木さんは本と同じくらい、いやそれ以上に人が好きなのかもしれない。
最後に「蔭木さんにとって、図書館ってどういう場所ですか?」と聞いてみた。そこで冒頭の、告白にも似た想いが溢れ出たのだった。
「私ねぇ、図書館っていう空間が好きなんです。ホッとして、あったかくって、居心地がよくって。自由にしていられる場所じゃないですか。そこに行ったらいろんな本が並んでて、手に取ったら、また違う世界に広がっていくっていうような場所なんですよ。だからね、そんなに本を読んでないですよって言いましたが、図書館好きなんですよね。いいですよ、みなさん図書館って。ひとりでも多くの方に図書館をご利用いただいて、図書館が生活のなかに潤いを持たらせればいいなと思いますね」
そうしてにっこり微笑む顔は、やっぱりお日さまのようだった。
1971年生まれ。大学卒業後、大学図書館に就職。その後、揖保郡立新宮図書館(当時)に入庁し4年半勤めた後、カナダへワーキングホリデーに。帰国した後、佐用町立図書館のオープン時からスタッフに加わり、現在に至る。趣味は演劇鑑賞と、掃除し終えた部屋でお茶をかたわらに本を読むこと。
佐用町立図書館
住所:兵庫県佐用郡佐用町佐用2585
電話番号:0790-82-0874
営業時間:10:00〜18:00
定休日:月曜、祝日、毎月末日、特別整理期間、年末年始
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