ある地域おこし協力隊員の、二拠点生活という選択。

 

佐用町をはじめ多自然地域に関するさまざまな分野で活躍中の、地域おこし協力隊員  平福祐介さん。

「はたらく、さよう。」では2018年12月にもインタビューを行いました。

1年余りのち、世の中はコロナによって様変わり。偶然、時を同じくして彼の二拠点生活もスタートしました。

協力隊の仕事を続ける中での二拠点生活のメリット・デメリットや、都市部と地方部の違いを聞いてみました。

 

経営の視点が、「見る目」を変えた

 

––– まずは平福さんの経歴を教えてください。

2016年5月に、佐用町地域おこし協力隊として佐用町に家族と大阪から移り住みました。農業振興支援員として、また南光ひまわり館館長として3年の任期を満了しました。2019年7月からは兵庫県版地域おこし協力隊に就任。引き続き、南光ひまわり館の代表として活動する傍ら、佐用町内の小規模集落支援などにも取り組んでいます。また、兵庫県内小規模集落支援の総合窓口となる「ふるさと応援交流センター」では、移住や地域活動支援などの相談対応を行う小規模集落相談員として週に1、2回神戸で働いています。そのほか、協力隊員のOB・OGによるネットワーク「一般社団法人 兵庫県地域おこし協力隊ネットワーク」理事、「株式会社元気工房さよう」常務取締役を務めています。
他にもケーブルテレビでの農業番組制作、野菜の出荷の手伝いなどを行っていました。
(以下、地域おこし協力隊を「協力隊」とする)

 

––– たくさんのわらじを履いてこられたんですね。ご自身の経歴を振り返って、どう感じていますか。

物事を見る角度が変わりました。協力隊員になる以前は営業の仕事をしていたんですが、いくら売り上げを上げても給料は上がらないんです。なんでやねん!って思ってました。サラリーマン時代は組織の中の歯車という感覚で、全体が見えていませんでしたね。

2018年2月に南光ひまわり館で直売所の運営に関わるようになってから、一部だけを見ていたことに気づきました。経営という観点から見たとき、営業のときの給料は上がらなくてもそら当たり前やな、と。自分が組織の中で働いていること自体にもたくさんのコストがかかっているんですから。

年齢的なこともあり、物事のおもしろい面も厳しい面も、若いときには見えなかったことが見えるようになりました。直売所の現場は本当に大変で、経営と言いつつ加工にも入らないといけない。経営は未経験でしたので、必ずしもうまくいっているとは思っていませんが、今も試行錯誤を繰り返しています。

館長を務める南光ひまわり館のスタッフと。(写真中央奥・2019年撮影)

 

自分と家族のための、二拠点生活

 

––– 二拠点生活は、どういう経緯でスタートしましたか。

家族のライフステージが最大の理由です。もともと、もし大阪に戻るなら子どもの小学校入学のタイミングだねとは話していました。佐用町に来たから骨を埋めるということではなく、まずはいっぺん住んでみようというスタンスで、大阪に戻るという選択肢も残していたということです。

Iターン生活の中で、私が働きに出ている間、妻は子育ての真っ只中に独りでいました。親せきも友人もなく、苦労をかけました。佐用町に住む間にさらに1人生まれたので、大阪に帰って私の両親にも助けてもらうことで子育てが少しでも楽になるようにと、徐々にその方向に傾きました。

ただ、私の協力隊としての任期は最長2022年6月までありますので、これを全うしたいとも思っていました。特に、館長を務めていた南光ひまわり館の経営統合(2020年10月、佐用町内の3直売所が統合して「株式会社元気工房さよう」が発足)もやり切りたかった。佐用町に来て4、5年経ち、人や施設とも関係性が築けていた中で、ある程度納得したいという思いもありました。

家族という視点からはわがままだったと思いますし、わがままを言うためには当然、家族を養い、2つの拠点を維持できる収入が必要です。例えば大阪では、佐用町では発生しなかった高額の駐車場代も払わないといけない。高速代もかかる。だからこそ、時間をかけて決断しましたね。

これから未来を歩む中で、自分のやらなければならないこと、やりたいことに正直になったことと、家族とのバランスを取った着地点が「二拠点生活」ということです。良い、悪いということではなく、タイミングによって流れていったということ。ベストな選択の結果だと思っています。

 

 

––– では、実際に二拠点生活をやってみて、いかがですか。

いいかなと思っています。佐用町の良さ、大阪の良さ、こっちの方がええな、と思うことがどっちもあります。移動は大変ですけど、海外というわけでもないですし。

 

––– 移動にはどれくらいかかりますか。

車で移動していますが、中国自動車道で約2時間ですね。

 

––– どのくらいのペースで行き来していますか。

週のうち5日は大阪で、2日を佐用で過ごしています。メインは大阪ですね。

 

––– それぞれで、どのような生活をしていますか。

大阪での5日間は、できる限り家族との時間を作るようにしています。この間には仕事で神戸に通っていますが、いわゆるスープの冷めない距離に私の両親が住んでいて子育てを助けてくれます。やはりまだまだ子どもに手がかかりますので、目は2つより3つ、4つのほうが助かりますね。ただ家で仕事をするのは難しいので、時間を作ってコワーキングスペースやファミレスなどで作業しています。

佐用にいる2日間は1人の時間ができますので、集中して仕事ができます。場所によって「家族」と「仕事」の時間が切り分けられ、メリハリのある生活ができています。

オンライン会議では特産品「佐用もち大豆」の商品をバーチャル背景として使用。PRに努める

 

 

メリットとデメリットを「選択」する

 

––– なるほど。ほかにメリットや、逆にデメリットと感じていることを教えてください。

メリットは、多くの情報を得られることです。佐用、大阪、神戸、それぞれで関係者がいるので、ふれる情報量が圧倒的に多くなりましたね。デメリットは、イライラしてしまうこと(笑)。大阪ではいろいろなことのスピードが速くて、それに乗らないといけない感じがするんです。例えば人や車が混雑していると、自分でイライラしてるなと思うことがあります。佐用ではそんなことなかったんですけどね。

時の流れが佐用と大阪では違っていて、佐用はゆったりしているし、景色も違う。気持ちが落ち着くのか、帰ってきたなと感じますね。行き来していると不思議な感覚になります。

いろいろなことの選択肢は、当然大阪のほうが多い。ただ、何が好きか、何を求めているかは人によって違いますし、例えば佐用にはほとんどないチェーン店がなかったら暮らしていけない、というものでもない。あったほうがいいというのも分かるし、結局どちらにもメリット・デメリットがあって、自分で選べる時代になってきていると思います。選択しなければ、決まった場所で働くということになりますよね。

 

「働く」のこれからと、変わらないポリシー

 

––– 働きかた、働く場所に対する考えかたが変わっていく中にあって、平福さんの働きかたのポリシーはありますか。

機械的にならず、人間味のある仕事をしたいですね。仕事は「人」対「人」であることを忘れてはいけないと思っています。それをおざなりにしてしまうと、仕事によっては機械のほうがいいということになってしまう。AI(人工知能)を使うのも人ですから。

あとは、失敗も僕はどんどんしたらいいと思っています。大事なのは「失敗しやすい環境」。次に成功するための失敗であるべきで、そのために周りの人とフォローできる環境を作って、いち早く報告して手を動かしながら解決していくことが大切だと思います。

 

––– これからの「働く」に対する思いを聞かせてください。

二拠点生活の選択という話をしましたが、自分でも「なったらいいな」ではなく、「こうありたい」にシフトさせていきたいと思っています。10年、20年先のような遠くでなくてもこれからどう変わるかわかりませんが、リモートは今後も廃れることはないでしょうし、コワーキングスペースやワーケーションでの働きかたも増えると思います。さまざまな概念を取り入れて、この先起こることに対応できる環境を整えておきたいですね。

無農薬・無添加の「ひまわり油」を手に。

 

 

 

 

 

職業人として、一家の長として、それぞれの思いと責任に向き合い、二拠点生活を選んだ平福さん。ありのままを真っ直ぐに話してくださいました。

ライフスタイルや働きかたが変わりつつある今、「選択」していくのは自分というお話に、平福さんの未来への意思が垣間見えた気がしました。

 

インタビュアー:タニグチヨシミ、ヤマモトトモコ

ライター、カメラマン:ヤマモトトモコ

 

 

平福祐介(ひらふくゆうすけ)

大阪市淀川区出身。不動産関連や事務機器メーカーで営業を経験したのち、2016年5月に地域おこし協力隊員として佐用町に着任。農業振興支援員として、また南光ひまわり館館長として3年の任期を満了したのち、現在は兵庫県版地域おこし協力隊に就任。兵庫県「ふるさと応援交流センター」小規模集落相談員のほか、一般社団法人「兵庫県地域おこし協力隊ネットワーク」理事、「株式会社元気工房さよう」常務取締役を務める。3児の父。