四季を感じながらものづくり。廃校の工房で、職人が見つけたもの。 [赤竹工房 竹本良平さん]

佐用町の北部、江川地域にある旧・江川保育園。その跡地が今、工房として利活用されています。

山に囲まれ、川のせせらぎが聞こえるのどかな景色の中で「赤竹工房」を営む革職人・竹本良平さんに、お話を伺ってきました。

竹本良平 さん

兵庫県たつの市生まれ。
実家が靴革の裁断を行っており、自身も家業に携わる形で革によるものづくりの道へ進む。
バブル後は一時ものづくりから離れるも、自身の「好きなこと」として再び革の世界へ。アパレル店を経営していた先輩からパンツ作りを依頼されたのを期に、様々な人気ブランドで縫製を手がけるように。エンターテイメントの世界にも活躍の場を広げ、これまでにB’z、DA PAMP、SADSなどの衣装も担当。2016年より佐用・江川地区に「赤竹工房」を構える。愛犬は虎徹と数珠丸。

第一印象は「無理」だった

―竹本さんは元々、たつの出身ですよね?どうして佐用に来られたのですか?

4年前、工房を構えたくて物件を探していたんです。姫路の飾磨の物件をほぼ契約しかけていたんですが、人の紹介で「佐用に良い物件があるから」と言われて来たのが、この佐用の江川保育園でした。

町の跡地活用の取り組みの対象物件で、10年間無償貸与っていう破格の条件だったんですが、保育園に来た時の第一印象は「無理」でした。(笑)

建物自体はええなって思ったんですけど、やっぱりここまで通うのが遠いし、人も来にくいだろうと思って。

でも奥さんに相談したら「ええやん」って言われて。姫路までの道はいつも渋滞しているし、実は佐用に通うのとそんなに変わりがない。確かにその通りだと思って、それでこの物件に決めたんです。

ただ、僕が入りたいと言ってもすぐに入れるわけじゃなくて、役場でコンペのようなものがあって、地域の人の承認を得る必要がありました。

当初は、革を薬品でなめしたり、革くずが出たりもするというイメージがあるから敬遠されましたが、ちゃんと対応について説明して理解してもらって。それで2016年の4月から、ここで工房を始めました。

―実際にここで工房を始めてから、問題はありませんでしたか?

全然。4年経ったけど、全然問題なし。今は、息子と娘も仕事を手伝いに通ってくれています。

生活もすっかり佐用スタイルになりました。一応いつも出かけるときは娘に「この格好でOK?」って聞いてるくらい(笑)

仕事のサイクルと合った暮らし

―(笑) もうほとんど佐用に住んでますよね?

最初は通うつもりだったけど、今はほとんどここで寝泊まりしてますね。快適、とは言えないけれど、全然暮らせてます。確かに冬は寒いし、春夏は虫も出るし。でも、窓の向こうの景色の変化を、一年通して見ながら仕事するのがすごくいいんです。

―お客さんが来ないのでは、と心配されてましたが…

最初はね、こんなところまで人は来ないだろうと思ってたんですけど、意外とみんな来てくれるんですよ。岡山いくついでにオーナーさんやデザイナーさんとかが来て、商談したり、デザインの確認したり、アイデア出し合ったり。みんな、結構おもしろがって遊びに来てくれます。

革製品って秋・冬がメインなので、12月くらいにはもう翌年の企画が始まるんですよ。2,3月には展示会があるので年明けにはデザインが大体決まって。4月~5月にシーズンにはいるんです。

工房の前の田んぼが5月に田植えをするんですけど、稲がすぐ成長して、そして刈られていく。そういう変化を毎日見てるんだけど、ここ数年それがずっと心地よくて。前の工場ではこんな季節感はなかった。農業のシーズンと一緒に仕事している感覚です。

―シーズン時の生活はどんな感じですか?

大体朝は毎日9時頃にスタートして、深夜1時くらいまで。起きてる間はずっと作業してますね。同じような作業が続くと精神的に疲れるので、適度に娘がコントロールしてくれています。(笑)

ちなみに、1発目の納品はだいたい7月なんですが、夏はエアコンをつけて外に出ずにひたすらジャケットを作っているので、日をほとんど浴びない生活をしてます。

そこから10月くらいまではずっと作ってるかなぁ。

―めちゃくちゃ働いてますね…

でもそれが普通だからね(笑) ちなみにこのミシンも長く使ってるんですが、仕事しすぎでかわいそう。

ぼくは基本的に革を素上げ(薬品などを使用せずそのままで仕上げること)で扱うのですが、革は油や水を吸い込むとシミになってしまうので、なかなか油をあげられないんです。

だからオフシーズンになったらたくさん油をあげて、またシーズンに入ったら頑張ってもらってます。

この場所でしか作れないものを作りたい。

―これからの展望みたいなものって、ありますか?

やっぱり、こうやって地域に入ったからには、ここじゃないとできないことをしたいですよね。じゃないと、せっかくここに来た意味がない。

最近新しい機械を導入したんです。革とカットソーを貼る機械。これで佐用オリジナルの、地元の鹿の革を使った軽いパーカーやシングルライダースなんかを作れたらな、と思って。

ただ鹿はなかなか採算が合いにくくて、ひとまずシープの革を仕入れて、サンプルをこれから作っていく予定です。

あとは、ここに展示室を設けて人が来れるようにしたりとか、泊まり込みのレザー教室をしてみたりとか。もっと色んな人に革のことを知って欲しいし、教えたいですね。

まずは地元の人向けにやってみて、そこからちょっとずつ感覚をつかんでいって、広げていけたらいいなと思っています。

愛犬の虎徹・数珠丸と戯れながら、陽気にインタビューに応えてくださった竹本さん。しかし、ひとたび革を触り始めると目が変わり、鮮やかに革を裁断していく姿はまさに職人でした。

赤竹工房では、ブランドへの納品のほか、不定期でオリジナル製品の制作も行っています。ご興味のある方は、ぜひ赤竹工房までお問い合わせください。